研究ノート
食パンと石窯パンの圧縮曲線——破断点を持たない試料から何を読むか
Field note
破断点を持たない試料は「壊れた点」が読めません。それでも、勾配の変わり目を追えば別々の性質を取り出せます。
- 試料
- 食パン(一般製法)/石窯パン(高温焼成)
- 試験
- 圧縮試験
- 測定モード
- MODE 1(定深度)
- 進入距離
- 厚みの 50 %
- 感圧軸
- No.3(φ20 mm 平板)
- ステージ移動速度
- 60 mm/min
- 反復数
- 各 2 回
- 試験室環境
- 23 ± 1 ℃ / 50 ± 5 %RH
要旨
製法の異なる 2 種のパンを同一条件で圧縮したところ、最大荷重の比(平均どうし)は 1.34 倍(2.56 N に対し 3.44 N)だったのに対し、初期弾性率の比は 2.41 倍(11.1 kPa に対し 26.7 kPa)と、倍以上に開いた。 圧縮曲線はいずれも 3 つの段に分かれ、段ごとに別の性質(表面の支え方・ふちの切れ方・ 組織の詰まり方)を映していることが示唆されます。 破断点を持たない試料でも、勾配の変わり目を指標にすれば製法差を数値で置けます。
背景と目的
パンの「ふんわり」「みっちり」は、購入の決め手になる性質です。ところが官能評価には 評価者のあいだの差と日ごとの揺れが乗ります[1]。数値で置きたい。
ここで壁になるのが、パンには破断点が無いことです。ビスケットのように 「ここで割れた」という点が曲線に現れないため、破断強度や破断ひずみといった よく使われる指標が定義できません。最大荷重は取れますが、 それは押し切った先の値で、口に入れた最初の手ごたえを表していません。
目的は 2 つです。 (i) 製法の異なる 2 種のパンについて、最大荷重・初期弾性率・圧縮仕事量・最大応力を 同一条件で取得し、どの指標が製法差をよく分けるかを比べること。 (ii) 曲線の勾配の変わり目が何に対応するのかを読むことです。
実験方法
- 試料:市販の食パン(一般製法・ふんわり系)と石窯パン(高温焼成・外皮形成型)。 スライスをそのままステージに置き、中心部(クラム)を押しました。
- 圧縮:試料台を 60 mm/min で上げてφ20 mm の平板に押し当て、スライス厚みに対して ひずみ率 50 % まで圧縮。厚みで規格化しているため、スライス厚みの違いは補正されます。
- 反復:各 2 回。同一試料の同じ位置を 2 回押すのではなく、別の位置を測っています。
算出した指標
- 最大荷重:記録中の最大値。
- 初期弾性率 E:応力-ひずみ曲線の立ち上がり (ひずみ 2〜10 %)を最小二乗で当てた傾き [kPa]。応力は荷重を感圧軸の面積 (φ20 mm 平板 = 314 mm2)で、ひずみは押し込み量をスライス厚みで割った値。 厚みはひずみ率 50 % の設定から逆算しています(食パン 28.2/29.2 mm、 石窯パン 21.9/22.3 mm)。最初の手ごたえにあたる。
- 圧縮仕事量:最大荷重に達するまでの曲線下面積 [N·mm]。 押し切るのに要した仕事。
- 最大応力:最大荷重を感圧軸の面積で割った値 [kPa]。
※ 一軸圧縮ではなく押し込みのため、応力・ひずみ・弾性率は公称値です。 当てる区間でも変わる(ひずみ 10〜30 % なら比は 1.5 倍)ので、材料定数ではなく 比較のための指標として扱います。
結果と考察
どの指標が製法差を分けるか
圧縮曲線を Fig. 1 に、算出した指標を Table 1 に示します。
| 試料 | 最大荷重 [N] | 初期弾性率 [kPa] | 圧縮仕事量 [N·mm] | 最大応力 [kPa] |
|---|---|---|---|---|
| 食パン 1 回目 | 2.69 | 11.5 | 16.2 | 8.55 |
| 食パン 2 回目 | 2.42 | 10.7 | 15.7 | 7.72 |
| 石窯パン 1 回目 | 3.67 | 24.1 | 19.3 | 11.68 |
| 石窯パン 2 回目 | 3.20 | 29.3 | 19.1 | 10.20 |
比で見ると差の出方がはっきりします。石窯パン ÷ 食パン(平均どうし)は、 最大荷重で 1.34 倍、圧縮仕事量で 1.20 倍、最大応力で 1.34 倍。 これに対し初期弾性率は 2.41 倍と、桁が違うほどではないにせよ、 明らかに大きく開きます。製法の違いは、押し切った先よりも押しはじめに出ます。
ただし石窯パンの初期弾性率は 2 本で 24.1 と 29.3 kPa、1.2 倍ばらついています。 外皮を形成する製法では組織の不均一さが大きく、2 本では比に幅が残ります(個別の組み合わせでは 2.10〜2.73 倍)。 差の向きは動きませんが、倍率を確定するには反復数を増やす必要があります。
曲線は 3 つの段に分かれる
勾配をとると、どの曲線も次の 3 段に分かれました。
- 面が支える——切断面が面として荷重を受け、勾配が上がる
- ふちでちぎれる——感圧軸のふちの近くで組織が切れ、勾配がゆるむ
- 詰まる——押し込んだぶんの組織が詰まり、また勾配が上がる
読み解き:パンには破断点がありません。曲線に谷ができないので 「どこで壊れたか」は読めませんが、勾配の変わり目は読めます。 1 段目が「表面の支え方」、3 段目が「組織の詰まり方」を映しており、この 2 つは 別の性質です。最大荷重だけを見ると、この区別は消えます。
石窯パンは全域で食パンより上を通ります。これは組織そのものの硬さの差として 読めます。気泡の大きさは本試験では測定していませんので、 「気泡が細かいから硬い」とまでは言えません。
結論
- 製法差は最大荷重(1.34 倍)より初期弾性率(2.41 倍)に強く現れた。 押しはじめの立ち上がりのほうが、製法の違いをよく分ける。
- 破断点を持たない試料でも、勾配の変わり目は読める。 曲線は 3 段に分かれ、1 段目と 3 段目は別の性質を映していることが示唆される。
- 石窯パンは組織のばらつきが大きく、2 本では比の幅しか押さえられない。 倍率を確定するには反復が要る。
参考文献
- T. Næs, R. Solheim, J. Sens. Stud., 6, 159–177 (1991).
この測定が役に立つ場面
- 配合や焼成条件の違いを、表面の支え方と組織の詰まり方に分けて比べたいとき
- 「ふんわり」「しっとり」を、押しはじめと押し切る手前の勾配として数値で置きたいとき
- 破断点が出ない試料(パン・スポンジ・練り製品)で、何を指標にするか決めたいとき
- 切断面の有無・乾燥の進み方が測定値に与える影響を見たいとき
本ノートで用いたのは市販品を切り出した試料です。試料の状態や切り出し方によって値は変わります。個々の製品の性質を保証するものではありません。