WHY
なぜ定量化するのか
Why quantify
食感を言葉で表すことは、これまでも行われてきました。それでも数値にする理由がどこにあるのかを整理します。
- 測定の対象
- 食品の力学物性
- 記録するもの
- 進入距離 [mm] と荷重 [N]
- 比較の条件
- 感圧軸・速度・温度をそろえる
- 最終更新
- 2026-09-26
官能評価の揺れ
The drift of sensory evaluation
官能評価——訓練を受けた人が食べて評価する方法——は、人が実際に感じたことをそのまま扱える、代えのきかない手段です。
ただし、避けにくい揺れがあります。評価する人によって基準が違い、同じ人でも体調や時間帯で感じ方が変わります[1]。「先月の試作品より少し硬い」と言われたとき、その「少し」がどれほどなのか、来月も同じ判断ができるのかは、確かめようがありません。
物性測定は、この揺れを小さくします。人の感覚ではなく装置の記録として残るので、担当者が代わっても、拠点が違っても、去年のデータと今年のデータを同じ条件で並べて比べられます。
官能評価と物性測定は、どちらかを選ぶものではありません。官能評価が「人がどう感じるか」を教え、物性測定が「その感覚が物理的に何に対応するか」を教えます。両方を組み合わせることで、「この食感を出すには、この数値を目指せばよい」という設計が可能になります。
- T. Næs, R. Solheim, J. Sens. Stud., 6, 159–177 (1991).
応答の「形」に固有の情報がある
Shape carries information
食品を一定の速さで押していくと、かかる力は時間とともに変化します。グミなら、力がなだらかに増え続けて、抜ける点がありません。ビスケットなら、力が細かく上下しながら壊れていきます。パンなら、押し込んでも大きな力にはならず、離すとある程度戻ります。
この「力の変化の形」は食品ごとに固有です。配合や製法が変われば形が変わり、同じ製品でも切る場所や向きによって細部は変わります。研究所ではこれを食感の指紋と呼んでいます。
小麦の生地を焼いたものどうしで、最大荷重も、その深さも、5 % 以内で一致する 2 品があります。それでも曲線の概形は逆を向きます。フィナンシェは浅いところで急に立ち上がり、中ほどでゆるみ、押し終わりでまた立ち上がります。石窯パンは浅いところがやわらかく、押し込むほど硬くなります。
区間ごとの平均勾配で見ると、0〜2 mm ではフィナンシェが 0.50、石窯パンが 0.30 N/mm で 1.7 倍の差がありますが、6〜8 mm では 0.19 と 0.33 N/mm に逆転します。「どちらが硬いか」の答えは、どの深さで聞くかによって変わります。最大荷重という 1 点だけを取ると、この違いは残りません。どの数値が何に対応するのかは測定で分かることで物性ごとに整理しています。
数値になると、何が変わるか
What changes
試作と評価の往復が速くなる
目標を「もう少し硬く」ではなく「破断荷重を 20% 上げる」と置けるので、試作ごとの判断が短時間で回ります。
ばらつきの原因に近づける
ロット間の差、保存中の変化、原料の違いが、官能では拾いきれない大きさでも数値に現れます。工程や配合のどこを直すかの手がかりになります。
外に向けて説明できる
取引先や監査、輸出先に「この製品はこういう硬さです」と数値で示せます。規格への適合も、同じ土俵で確認できます。
お手元の試料の「指紋」を、見てみませんか
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