研究ノート
マヨネーズと低カロリータイプ——温度で動くのは粘性か弾性か
Field note
液体は温めると必ずさらさらになる——とは限りません。低カロリータイプは、温めるほど粘っていました。
- 試料
- マヨネーズ / 低カロリータイプ(市販品)
- 試験
- 粘弾性測定(ずり速度掃引)
- 温度
- 10・20・30・40 ℃
- ずり速度
- 0.14〜4.08 1/s(各温度 30 点)
- 測定量
- ずり応力・粘性率・弾性率
要旨
市販のマヨネーズと低カロリータイプを 10 ℃ 刻みで測定したところ、粘性率は マヨネーズで 6.14 → 4.38 ×104 mPa·s(10→40 ℃、−29 %)と下がったのに対し、 低カロリータイプは 2.02 → 2.64 ×104 mPa·s(+31 %)と上がった。 その結果、10 ℃ で 3.0 倍あった両者の差は 40 ℃ で 1.7 倍まで縮みます。 温度を上げるほど粘度が下がるという通常の挙動に、低カロリータイプだけが従わないことが 示唆されます。 弾性率も、マヨネーズは 3.60 → 2.84 kPa(−21 %)と下がりました。 マヨネーズは粘性・弾性のどちらも下がり、低カロリータイプはどちらも下がりません。 温度を上げると軟らかくなる、という液体として自然な向きに動いているのはマヨネーズだけで、 低カロリータイプはその向きに従っていないことが示唆されます。
背景と目的
マヨネーズは油滴が水相に密に詰まった乳化物です。粘度の大半は油滴の充填から 来ています。低カロリータイプは油分を減らしているため、減った油の代わりに増粘多糖類で 粘度を出す設計が一般的です。粘度を作っているしくみが違う。
ふつうの液体の粘度は温度が上がると下がります(Arrhenius 型)。 ところが増粘多糖類の水溶液には、これに従わない例が知られています。 たとえばキサンタンガムは、温度上昇にともなって固有粘度が増加することが 報告されています[1]。鎖の取る形が、温度が上がるにつれて 硬い状態からより柔らかい状態へ移り、広がることによると説明されています[2]。
目的は 2 つです。 (i) 両者の粘性率と弾性率の温度依存性を、冷蔵から常温の範囲で定量化すること。 (ii) 温度で動いているのがどちらの試料の、どちらの量なのかを切り分けることです。
実験方法
- 試料:市販のマヨネーズと低カロリータイプ。各温度で十分に平衡させてから測定しました。
- ずり速度掃引:0.14〜4.08 1/s の範囲を 30 点で掃引し、 各点でずり応力・粘性率・弾性率を記録しました。
- 温度:10・20・30・40 ℃ の 4 点。 冷蔵庫から常温までの、実際に使われる範囲です。
集計のしかた
- 各温度の代表値は、その温度で測った全点の中央値としました。 平均ではなく中央値を使うのは、外れ値に引かれて実際より滑らかな傾向に 見えるのを避けるためです。ばらつきは四分位範囲で示します。
- 負値と欠測は装置の測定下限を割った点なので除外しました(各温度 n = 20〜30)。
- 弾性率は、ずり速度 1.5 1/s 以下の低ずり域に限って集計しました。 高ずり域では試料が流れており、弾性率の値が意味をなさなくなるためです。
- 温度の比較は、同じずり速度の点どうしで比を取りました。 温度ごとの中央値を並べるだけだと、有効点の分布に引きずられます。 低カロリータイプは 10 ℃ で高ずり側に 8 点あるのに 40 ℃ では 1 点しかなく、 中央値がその差を拾ってしまうためです。同じずり速度で揃えれば相殺されます。
※ 本測定は定常ずりであり、動的粘弾性測定(振動法)ではありません。 ここでいう「弾性率」は装置が定常ずりから算出する見かけの値です。 なお 50 ℃ 以上でも測定していますが、加熱にともなう蒸発や乳化の不安定化が疑われ、 傾向が崩れるため、本ノートでは 10〜40 ℃ の範囲を扱います。
結果と考察
粘性率は、逆を向いて動く
温度に対する粘性率と弾性率を Fig. 1 に、粘性率の値を Table 1 に示します。
| 温度 | マヨネーズ η [×104 mPa·s] | 低カロリータイプ η [×104 mPa·s] | 比(マヨ ÷ ハーフ) |
|---|---|---|---|
| 10 ℃ | 6.14 | 2.02 | 3.04 |
| 20 ℃ | 5.03 | 2.21 | 2.28 |
| 30 ℃ | 4.66 | 2.52 | 1.85 |
| 40 ℃ | 4.38 | 2.64 | 1.66 |
マヨネーズは 29 % 下がり、低カロリータイプは 31 % 上がりました。 差は 3.0 倍から 1.7 倍まで縮みます。
動いているのは低カロリータイプのほうです。マヨネーズの低下(−29 %)は 液体として自然な挙動です。説明が要るのは低カロリータイプの上昇(+31 %)のほうで、 差が縮むのはこちら側の事情によります。
マヨネーズは弾性率も下がる
低ずり域に限って集計した弾性率を Table 2 に示します。
| 温度 | マヨネーズ E [kPa] | 低カロリータイプ E [kPa] | 比 |
|---|---|---|---|
| 10 ℃ | 3.60 | 2.30 | 1.57 |
| 20 ℃ | 3.39 | 2.26 | 1.50 |
| 30 ℃ | 2.67 | 2.23 | 1.20 |
| 40 ℃ | 2.84 | 2.45 | 1.16 |
マヨネーズの弾性率は 3.60 → 2.84 kPa と 21 % 下がりました (30 ℃ の 2.67 kPa を最低に、40 ℃ でわずかに戻ります)。 粘性率の −29 % と同じ向きで、大きさも近い。 温度を上げると、粘る力も、はねかえる力も、そろって弱くなります。
いっぽう低カロリータイプの弾性率は 2.23〜2.45 kPa の範囲に収まり、 ばらつきを考えると動いたとは言えません。粘性率が 31 % 上がったことと合わせると、 この試料は温度を上げてもどちらの量も下がらないことになります。
同じずり速度で揃えて比べる
温度の影響だけを取り出すため、同じずり速度の点どうしで比を取り、 その中央値を 10 ℃ を 1 として並べました(Fig. 2)。 破線より上なら温度とともに増え、下なら減ったことになります。
マヨネーズは粘性率が 0.94 → 0.87 → 0.76、弾性率が 0.91 → 0.87 → 0.74。2 本がほぼ重なって下がります。 低カロリータイプは粘性率が 1.04 → 1.22 → 1.30 と上がるいっぽう、 弾性率は 1.02 → 0.95 → 1.04 で破線の上に乗ったままです。
※ 低カロリータイプの粘性率の上昇は、ずり速度によって見え方が変わります。 1.5〜3 1/s の範囲では 10→40 ℃ で 1.40 倍と明瞭ですが、 1.5 1/s 以下では傾向が出ません。上の値は全ずり速度をまとめたものです。
向きで分けると、ちがいがはっきりします。 マヨネーズは粘性率 −29 %・弾性率 −21 % でそろって下がる。 これは温度を上げれば軟らかくなるという、素直な向きです。 低カロリータイプは粘性率 +31 %・弾性率 +6 % でどちらも下がらない。 温度に対する応じ方そのものが、2 つの試料で違っています。
読み解き:液体の粘度は通常、温度の上昇とともに低下します(Arrhenius 型)。 低カロリータイプはこれに反しています。減らした油分を補うために用いられる増粘多糖類、 たとえばキサンタンガムは、固有粘度が温度の上昇とともに増加することが 報告されており[1]、鎖の取る形が温度によって硬い状態からより柔らかい状態へ移り、 広がることによると説明されています[2]。 本試験では増粘剤の種類・配合量を測定していません。 上記は文献で報告されている機構との整合であり、本試料の組成を同定したものではありません。 引用した文献はキサンタン水溶液についてのもので、油滴を含むマヨネーズそのものを 測ったものではありません。
結論
- 10〜40 ℃ で、マヨネーズの粘性率は 29 % 低下し、低カロリータイプは 31 % 上昇した。 2 つの試料は温度に対して逆を向く。
- 両者の粘性率の差は 3.0 倍から 1.7 倍まで縮む。 動いているのは低カロリータイプの側であり、差が縮むのはこちらの事情による。
- マヨネーズは弾性率も 21 % 下がり、粘性率と同じ向きに動いた。 低カロリータイプはどちらも下がらない。温度に対する応じ方が 2 つの試料で違う。
参考文献
- Int. J. Mol. Sci., 25(1), 490 (2024).
- E. Choppe, F. Puaud, T. Nicolai, L. Benyahia, Carbohydr. Polym., 82(4), 1228–1235 (2010).
この測定が役に立つ場面
- 低脂肪・低カロリー設計で、常温と冷蔵で性状が変わる度合いを把握したいとき
- 増粘剤の種類・配合量を、温度依存性の形で比較したいとき
- 「冷たいときと常温で印象が違う」という声を、数値で確かめたいとき
- 温度に対して粘性と弾性が同じ向きに動くかを確かめたいとき
本ノートの数値は、装置が出力したずり速度掃引の測定値を集計したものです。増粘剤の同定は行っていません。市販品を試料としており、個々の製品の性質を保証するものではありません。