研究ノート
パックご飯の経時変化——硬さ・付着力・凝集性は同じように動くか
Field note
冷めたご飯は「ぼそぼそになった」と言われます。測ってみると、ばらけやすさは変わっていませんでした。
- 試料
- パックご飯(白米)
- 試験
- 圧縮試験・TPA
- 測定モード
- MODE 1(定深度)
- 進入距離
- 10 mm
- 感圧軸
- No.1(φ20 mm 平面)
- ステージ移動速度
- 60 mm/min
- ロードセル
- 10 kgf
- 水準
- 炊きたて / 30 分後 / 1 時間後 × 各 3 回
- 試験室環境
- 23 ± 1 ℃ / 50 ± 5 %RH
要旨
パックご飯を加熱直後・30 分後・1 時間後に測定したところ、TPA の硬さは 5.38 ± 0.26 N から 3.20 ± 0.50 N へ 41 % 低下し、付着力も 0.45 N から 0.35 N へ 21 % 低下した。いっぽう凝集性(2 回目と 1 回目の面積比)は 0.630 から 0.677 と、 ばらつきの範囲で動かなかった。 押しはじめ(0〜2 mm)の勾配も 3 水準で差が無く、落ちるのは押し切る手前(8〜10 mm)だけでした。 飯粒そのものではなく、粒どうしの関係が変わったことが示唆されます。 塊のまま押すことで、粒の性質と充填の状態を 1 本の曲線から分けて読めます。
背景と目的
パックご飯は電子レンジで温め直して食べる利便性食品です。 温め直してから食べるまでの時間で食感が変わることは経験的に知られていますが、 従来は喫食時間ごとの官能評価で議論されてきました。評価者のあいだの差と日ごとの揺れが 乗るため[1]、「どれくらい変わったか」を数値で共有しにくい。
米飯の物性測定にはもう一つ論点があります。粒で測るか、塊で測るか。 1 粒を測れば粒そのものの性質が取れますが、粒ごとの形・大きさ・水分がそのまま値のばらつきに なります。塊のまま押せば平均化されますが、何を見ているのか分からなくなる のではないか、という懸念があります。
目的は 3 つです。 (i) 経過時間ごとの硬さ・付着力・凝集性を、反復つきで定量化すること。 (ii) 曲線のどの区間が変化するのかを切り分けること。 (iii) 塊のまま押す測り方が、情報を失わずに済むかを確かめることです。
実験方法
- 試料:市販のパックご飯(白米)を電子レンジで規定加熱し、 室温で 0 分・30 分・1 時間放置。パックのまま(粒に分けない)。
- 圧縮:試料台を 60 mm/min で上げてφ20 mm の平面に押し当て、10 mm まで貫入。
- TPA:同じ試料を 2 回続けて押し、噛む動作を模します。 各水準 3 反復。
算出した指標(本ノートでの定義)
- 硬さ:1 回目の押し込みの最大荷重 [N]。
- 付着力:1 回目の引き上げで負側に出る荷重の最小値 [N]。 感圧軸から試料を引きはがすのに要る力。
- 凝集性:2 回目と 1 回目の、正の荷重の曲線下面積の比。 1 回目で壊した後も、まとまりが残っているかを表します。
※ 凝集性の定義は装置や文献によって異なります。本ノートでは上の定義で統一しており、 他の定義による値と直接は比較できません。
結果と考察
3 つの指標は、別々の動き方をする
圧縮曲線を Fig. 1 に、TPA から求めた指標を Table 1 に示します。
| 水準 | n | 硬さ [N] | CV | 付着力 [N] | 凝集性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 炊きたて | 3 | 5.38 ± 0.26 | 4.8 % | −0.45 ± 0.03 | 0.630 ± 0.114 |
| 30 分後 | 3 | 3.43 ± 0.20 | 5.9 % | −0.38 ± 0.02 | 0.582 ± 0.081 |
| 1 時間後 | 3 | 3.20 ± 0.50 | 15.5 % | −0.35 ± 0.07 | 0.677 ± 0.053 |
硬さは −41 %、付着力は −21 %。 いっぽう凝集性は +7.5 % ですが、各水準の標準偏差(0.05〜0.11)より小さく、 変化したとは言えません。
3 つ目が効いています。もし冷めてご飯がばらばらになっているなら、 2 回目に押したときのまとまりが 1 回目よりぐっと落ちるはずです。ところが比は動かなかった。 構造そのものが壊れたわけではないということになります。
落ちるのは曲線の後半だけ
TPA の記録全体と、引き上げの谷を拡大したものを Fig. 2 に示します。
曲線を区間に分けて勾配をとると、押しはじめ(0〜2 mm)の勾配は 3 水準とも 変わりませんでした。落ちるのは押し切る手前(8〜10 mm)の勾配だけです。
読み解き:押しはじめは粒そのものを、押し切る手前は 粒の詰まり方を見ていると解釈できます。3 水準で押しはじめが変わらないことは、 飯粒自体の性質があまり変わっていないことを示唆します。変わったのは粒どうしの関係のほうで、 TPA の「付着力は落ちるが凝集性は変わらない」もこれと整合します。 ばらばらになったのではなく、くっつく力だけが落ちたと読めます。
塊で測ると情報を失うか
失いませんでした。塊のまま押すと一度に多数の粒を相手にするため、粒ごとのばらつきが 平均化されます。実際、硬さの変動係数は炊きたてで 4.8 %、30 分後で 5.9 % にとどまりました。しかも 1 本の曲線の中で押しはじめと 押し切る手前を分けて読めるので、粒の性質と充填の状態を別々に取り出せます。
ただし 1 時間後だけ変動係数が 15.5 % に跳ねています。 冷めるにつれて表面の乾き方が場所によって変わるためと考えられますが、 本試験では表面水分を測っていないため、確かめたものではありません。
結論
- 硬さは 41 %、付着力は 21 % 落ちたが、凝集性はばらつきの範囲で動かなかった。 3 つの指標は別々の動き方をする。
- 落ちるのは押し切る手前の勾配だけで、押しはじめは変わらない。 飯粒そのものではなく、粒どうしの関係が変わったことが示唆される。
- 塊のまま押しても情報は失われにくい。変動係数は 30 分後までは 5〜6 %(1 時間後は 15.5 %)で、 1 本の曲線から粒の性質と充填の状態を分けて読める。
参考文献
- T. Næs, R. Solheim, J. Sens. Stud., 6, 159–177 (1991).
この測定が役に立つ場面
- 炊飯条件・保存条件の違いを、粒の性質と詰まり方に分けて比べたいとき
- 「粘り」「ほぐれやすさ」を、付着力と凝集性として別々に置きたいとき
- 粒で測ると値がばらつきやすい試料を、塊として安定して測りたいとき
- 提供温度帯・喫食タイミングの設計を、官能でなく数値で詰めたいとき
本ノートで用いたのは市販のパックご飯を測ったものです。銘柄・加熱条件・保存状態によって値は変わります。個々の製品の性質を保証するものではありません。